?」
 と言いました。
「俊夫君の案内役さ」
「や、俊夫君、ご苦労様」
 と、白井刑事は俊夫君を軽蔑するような口調で言いました。
「お嬢さんの依頼でお邪魔しています。時に解剖の結果どうでしたか」
 俊夫君は尋ねました。
「死因は絞殺だそうだ」
「そりゃはじめから分かっていますよ」
 と俊夫君は笑って斎藤の方を向いた。
「斎藤さん、先生はゆうべたいへん機嫌が悪かったそうですね?」
「たいへん悪かったですよ」
「一時頃に信清さんを呼びにいったのはあなたですか」
「僕です」
「先生は信清さんと喧嘩されましたか?」
「何だか言い合っていられました。僕は先へ寝ましたからよく知りません」
「今朝《けさ》先生の死んでいられることを見つけたのは誰ですか?」
「婆やです」
「婆やはどうしました?」
 このとき令嬢が口を出して、婆やは博士の死に驚いて気分が悪くなり、いま奥で休んでいると告げました。
「兄さんちょっと来てくれ、お使いに行ってもらいたいから」
 こう言って、俊夫君は意味ありげに眼くばせして、室《へや》を出てゆきましたので、私はその後からついて出ました。
 玄関のところへ来ると、俊夫君は小声になって言いました。
「兄さん、すまないが、これから電話室の後ろの物置部屋に入って隠れていてくれ、僕はこれから書斎へ行って、この暦の話をするんだ。そうすると、きっと誰かが電話をかけにくる。そしたら、何番の誰を呼びだして、どんな話をするか聞いて、この紙に書いてきてくれ、もっとも話は分からぬでもよい」
 私は紙と鉛筆を受け取って言われるままに、薄暗い物置部屋の隅にしゃがんで誰が電話をかけにくるかと、耳をすまして待ちかまえました。一分、二分、三分、こういう時の一分は一時間にも相当します。あたりは森閑《しんかん》としていて、自分の心臓の鼓動さえ聞こえました。
 十分ほど過ぎると、電話室の扉《ドア》の静かにあく音がしました。
「大手の三二五七番」
 と、呼びだしたのは、まさしく書生の斎藤の声です。
「もしもし、通り四丁目の蔦屋《つたや》ですか、青木さんを呼んでください」
 しばらくすると、斎藤は何やら話しだしましたが、符丁《ふちょう》のような言葉づかいで、何を言っているのかさらに分かりませんでした。およそ三分間ばかり話してから、再び扉をこっそり閉めて、あちらの方へ去りました。
 そこで私は物置部屋を
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