なかったら、永久に知れずに済むであろう。けれども、永久に知れずに済ますにはあまりに惜しい。俗謡《ぞくよう》に、「知れちゃいけない二人の仲をかくして置くのも惜しいもの」とある。その心理で、今回もまた自分はこれを書き残すのだ。
近藤進と自分とはまったく路傍の人であった。それだのに何で自分が彼を殺す気になったのか、直截《ちょくせつ》に言えば彼の鼻である。彼の鼻が自分の気に喰わなかったからである。それでは彼の鼻のどこが自分の気に喰わなかったのか、それはいまだに自分にもわからない。別に彼の鼻がずばぬけて大きかったのではなく、また低過ぎたのでもない。曲って居たのでもなければ、仰向いて居たのでもない。けれども私は、はじめて彼に道ですれちがったとき、思わずもぞっと身ぶるいした。つまり、全体の感じが悪かったのだ。そうしてこの鼻を滅ぼさなければ、到底自分は生きて居られないと思った。だからその瞬間に彼を殺すことに決心して、彼のあとをつけて行ったのである。
それから自分は彼の生活状態を熱心に研究して、彼の家にはしのび入り易いこと、彼は老婆と二人きりで暮して居ること、彼が愛猟家で書斎で火薬の装填を行うことな
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