んせい》自殺ならむかとも疑われしが右は全く同人の過失にて同日書斎にて猟用二連発銃のケースに火薬装填中過って爆発せしめしものと判明せり因《ちな》みに同家は召使いの老婆と二人暮しにて半年たたぬ内に重ね重ねの不幸とて附近の人々は至極同情を寄せ居《お》れり
[#ここで字下げ終わり]

 この二枚の切抜に続いて、「犯罪日誌」の四文字が記され、弘《ひろむ》の手蹟で、細かな文字が、その後の幾頁かを埋めて居た。由紀子は、今はもうすっかり腰を落ちつけて、吸いつけられるように読みはじめた。

 また犯罪日誌の書けるのが悦ばしい。獄舎の鉄窓《てっそう》をもれる月光のもとに、絞首台の幻影を掻《か》きわけながらペンを走らす犯罪日誌は、本人にとって聊《いささ》かの悦びをも齎《もた》らさないであろう。然るに自分はどうだ。何の悔恨の情もなく、ただ喜悦の情のみをもって、自分の犯した罪をいつもの如くさらさらと書くことが出来るではないか、悪魔よ随喜《ずいき》の涙を垂れてくれ。
 近藤進の過失死が実は他殺であること、而《しか》もその犯人がこの自分であることは悪魔のみの知る秘密である。そうして、自分が今ここにその真相を書き残さ
前へ 次へ
全14ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング