しては小さ過ぎる、黒|鞣皮《なめしがわ》の表紙の本に目がとまった。由紀子はふと好奇心に駆られてその表紙をはぐと、
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「犯罪の魅力は生命の魅力にまさる」
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 と、筆太に記され、次の新聞の切抜が貼られてあった。

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  火薬爆発して生命危篤
     愛猟家の奇禍
三日午後六時頃府下大崎町桐ヶ谷×番地無職近藤進方にて轟然たる音響が起り同時に窓より朦々《もうもう》たる白煙の噴出するのを通行の者が認め直《ただ》ちに駈附けたるに同家の主人にして愛猟家たる近藤進(三〇)は全身に大火傷を蒙《こうむ》りて書斎の床上《しょうじょう》に打ちたおれ苦悶中なりしをもって即刻附近の医院に舁《かつ》ぎこみて応急手当を施したるも顔面及び上半身は火薬の爆発によりて目も当てられぬほどの惨状を呈し生命危篤なり原因その他に就ては目下取調中

  火薬爆発は過失と判明
去る三日午後六時半火薬爆発によりて生命危篤に陥れる府下大崎町桐ヶ谷×番地愛猟家近藤進(三〇)は遂に意識を恢復せずして四日午前九時絶命せるが其後原因取調中一時は五ヶ月以前に愛妻を失いたる厭世《え
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