かしまさか、その話をきかしてくれともいえぬのでそのまま口を噤《つぐ》んで、窓の方に眼をやった。
雨はまだ頻に降っていて、窓を打つ水滴が砕けては流れた。汽車は私たちの気持を少しも知らぬ気に相変らず単調な音をたてて走った。私が再びその人の方を向くと、ちょうどその時二人の視線が打《ぶ》つかった。すると、その人は、私の心の中を察したと見え、にこりとしながら、
「まだ夜あけまでに間があるようですから、一つ私の身の上話を御耳に入れましょうか」といい出した。私は心の中で大《おおい》に喜んで、同意を表すると、その人は次のような恐しい物語りをはじめた。
私は日本橋に株式仲買店を持つ辻というもので御座います。御承知のとおり、株屋などというものは非常に迷信深いものですが、私は先刻も申しましたとおり、決して迷信などを意にかけませんでした。ところが最近私の身にふりかかって来た不幸と災難のために、すっかり私は迷信家になってしまいました。そうして、今では、物の祟りだとか縁起だとかを信じない人は、その人が平凡に暮して来て何の不幸にも逢わない証拠を示しているようなものだと信ずるようになりました。
私がここに持っ
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