はり、そういうことを信じないではいられなくなりましたよ」
私はこの言葉をきくと妙な感じに襲われた。というのは、平素私は迷信を一切排斥していたのであるが、今日母の危篤の電報を受取ってからというものは、何となく迷信を斥《しりぞ》けることが出来ぬようになって、実をいうと先刻、この人から、妻の遺骨云々のことをきいたとき、何だか母が死んでしまいそうな気がしてならなかったからである。
「奥さんは最近におなくなりになりましたか」と、私はしんみりした気持になってたずねた。
「ちょうど五十日|前《ぜん》になくなりました」といってその人は悲しい表情をした。私はこんなことをきかねばよかったと思い、話題をかえるつもりで、
「失礼ですがあなたは戦争にでも御出になって負傷なさったので御座いますか」と、たずねた。
するとその人は更に一層悲しそうな表情をしていった。
「妻のなくなった同じ日に眼と足に負傷したのですよ。ですから、まだ義足をはき馴れてもおらず先刻はとんだ失敗をしたのです」
私はその時、その人の悲しみに同情するよりも、私の予想が当ったような気がして、その人の不具となった事情がききたくてならなかった。し
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