一晩中考えて寝られませんでしたが、あくる日になって、私は断然、彼女には告げないで置こうと決心しました。彼女がもしそれを知ったならば、発狂し兼ねはしないだろうと思ったからです。或は私の錯覚であったかも知れぬと思い、その後、くらやみの中でそれとなく彼女を観察しましたところ、まがいもなく彼女の眼は猫のように光りました。
 私はその時はじめて、物の祟りということを信ずるに至りました。今になって見れば彼女の眼の光ったのは何も不思議なことではありませんが、しかし、物の祟りを信ずるの念は、もはや動かすことが出来なくなりました。
 後妻は何も知らずに△△教に通いました。然し右眼は遂に完全に明《めい》を失ってしまいました。とかくするうちに、彼女の眼は暗やみの中で光らなくなりましたので私は一時内心で喜びましたが、明を恢復することが出来ぬばかりか、だんだん右の眼が前方に突出して来るようになり、それと同時に彼女ははげしい頭痛を訴えました。
 ある日彼女は突然高熱を発してどっと床につきました。私はもう我慢が出来なくなって医師をよぶことにすると、さすがの彼女も同意を表しました。診察に来て下さったN博士は、彼女を診
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