察し終るなり、私を別室に呼んで、
「はじめ奥さんの右の眼は、猫のように暗やみの中で光りはしませぬでしたか?」
と、小声でたずねました。私はびっくりして答えました。
「そうです」
「あれはグリオームという病気で、網膜に出来る悪性の腫瘍なのです。子供に多いのですが、大人にもたまにあります、猫の眼のように光る時分に剔出《てきしゅつ》するとよいのでしたが、今はもう手遅れです」
「手遅れと申しますと、右の眼が助からぬということですか」と私は心配してたずねました。
「いいえ、残念ながら腫瘍が脳を冒しまして、急性脳膜炎を併発しましたから、とても恢復は望めません」
私は脳天に五寸釘を打こまれたように思いました。地だんだ踏んで後悔してももはや及びませんでした。
その夜から妻は高熱のために譫語《うわごと》をいうようになりました。
「三毛が来た!」
「三毛が来た!」
こう叫び続けて、三日目の午後、彼女は二十七歳を一|期《ご》として瞑目しました。
たとい、彼女の右眼の病気が不思議な原因でないとわかっても、私は、彼女が先妻の死霊の祟りのために死んだのだとかたく信じました。そうして、私は心の中で、先妻の
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