後妻の枕もとのあたりに前と同じようなぴかりと光るものを見ました。私はがばとはね起きて、電灯をつけましたが、やっぱり猫はおりません。
「まあ、どうしたというの?」と、彼女はびっくりしていいました。
「なに、何でもないんだ」と答えた私の声はたしかに顫えておりました。
 それから私は電灯を消して再び寝につきましたが、やがて私が彼女の方を向くと、再びぴかりとするものが見えました。私ははげしい興奮を辛うじて抑制しながら、徐《おもむ》ろに右手をのばして、その光るものの方へ近づけると、私は思わずも彼女の鼻をつかみました。
「何をなさるの?」と、後妻は笑いながらいいました。私は笑うどころでなく、なおもその光る物の方へ指をのばして行きますと、彼女の右の眼の睫毛《まつげ》にさわりました。私はぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]として手を引きました。
 猫の眼のように光るのは、まがいもなく彼女の右の眼でした。
 私はその時心臓が胸の中から、抜け出るかと思うような感じをしました。
 後妻が猫になった!
 猫の祟り!
 先妻の執念!
 こう考えると私は、もう恐しさに彼女にそのことを告げる元気がありませんでした。その夜は
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