はよくならないばかりか、いよいよ右の眼は見えなくなってしまいました。それでも後妻は△△教の力にたよって医師を訪ねようとはしませんでした。[#「しませんでした。」は底本では「しませんでした」]
 ある夜私は可なりに遅く帰宅しました。いつも後妻は私より先に寝たことはありませんでしたがその夜は少し気分が悪いといって床の中にはいっておりました。そうして、いつも電灯をつけて寝るのでしたが、その夜は眼がちらつくといって電灯を消しておりました。私は何気なく、その寝室をあけますと、妻は私の声をきいて起き上りましたが、その時私は暗やみの中に猫の眼のようにぴかりと光るもののあるのを認めました。
「三毛がいる!」と、私は思わず叫びました。
「ひえーッ?」といって後妻はとび上って電灯をつけました。
 ところが、その室には三毛の姿が見えませんでした。私たちは思わず顔を見合せましたが、お互いの顔には恐怖と安心との混合した表情が漲《みなぎ》りました。
「まあ、驚いた!」と後妻は申しました。
「いや、俺の見違いだったんだ! 堪忍してくれ」
 こういって私は、寝間着に着換え、彼女を寝かせて電灯を消し、いざ寝ようとすると
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