ものがびっくりして追おうとしても、暫くの間はどうしても動かなかったということでした。この三毛が、後妻に少しも馴染まなかったので御座います。後妻が抱き上げようとしますと、必ず引掻いて逃げて行きました。私は先妻の生きている時分からあまり三毛を好みませんでしたが、先妻が死んでから三毛は私に対しても、何かこう一種の敵意を持っておるかのような風をしました。そうして三毛は時折じっと立ちどまっては、私たちを凝視するのでしたが、その凝視に逢うと、私も後妻も肌に粟を生じないではいられませんでした。とうとう後妻はあの猫には先妻の死霊がついておるから、どこかへ捨てさせてくれと私に頼みましたので、はじめに私は店のものに牛込の方まで持って行かせて捨てさせたのでしたが、二日すぎるとちゃんと帰って来ておりました。いよいよ私たちは気味を悪がって、それから随分遠いところまで度々捨てさせたのですが、三四日過ぎると必ず帰って来るのでありました。後妻はいっそ毒殺してしまおうかなどとも申しましたが、何だか、後の祟りがおそろしいように思われたのでその儘《まま》毒殺を決行せずに過ぎました。
 とかくするうちに、先妻の死後一年あまり
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