ごとに物を切ることが出来るものでないと思っていました。ところが、後にその考えの根本的に誤っていたことがわかったのであります。
 さて、先妻はその時に恐しい遺言状を残して行ったので御座います。その文句によると、幽霊になって私の女を取り殺し、並びに私を不具にするか、或は取り殺さねば置かぬというのでありました。果して私たちは、そのとおりの運命に出逢ったので御座います。
 尤《もっと》も、その時は、嫉妬に駆られた女の常套語として、私は少しもそれを気に懸けませんでした。そうして、先妻の死後半ヶ年というものは私にも女にも何事も起りませんでした。で、私は身のまわりの不自由を感じて、とうとう、その女を家に引き入れて後妻としたのですが、それがいわば不幸を招く発端となったので御座います。
 私の家には、祖母の代から飼いはじめたという三毛《みけ》の雌猫《めねこ》がおりました。可なりに大きな身体をしていましたが、この三毛を先妻はわが子のように可愛がりました。その可愛がり方は実に常軌を逸していたといってもよい程でした。先妻が自殺してその死骸が発見されたとき、三毛が死体の上に乗って蹲《うずくま》っていたので、店の
前へ 次へ
全22ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング