ました。本当に私たちはどういう奇《く》しき因縁のもとに生れたので御座いましょう。あなたもまた私と同じように、左の眼の網膜炎に罹《かか》って明を失って御いでになろうとは、偶然の一致とはいえ、あまりにも偶然過ぎることで御座います。右の眼と左の眼との相違こそあれ、共に片目が見えないということ而《しか》もそれを双方が秘密にし合ったということは何という皮肉な運命で御座いましょう。似た者夫婦という言葉がありますが、こんな風に似ようとは、お互に思いもよらぬことで御座いました。両親はじめ私も、こちらの秘密を隠すことに気をとられて、ついついあなたの御眼には気がつかなかったので御座います。まさかあなたが同じ病に罹っておいでになろうとは、どうして考えられましょう。もとより御仲人様からはその話はなく、今日御仲人様が見えまして、はじめて双方の秘密をお知りになり、知らずしてこれまで双方を欺《あざむ》いて居たと言って苦笑して居《お》られました。然し、若しこれが、双方のだましあいの喜劇に終らず、一方だけがだまされる悲劇に終ったとしたならば、御仲人様の責任は決して軽くはないと思います。
 思えば結婚の当夜、褥《しとね》
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