ます。両親も、もはや今となっては、すっかり諦めて居《お》ります。まだ御仲人様には申し伝えにまいりませんが、その代り、私がこの手紙を書くことに同意してくれました。実は、両親は御仲人様のところへ出かけるのに、頗《すこぶ》る足が重いらしいので御座います。
 不思議な御縁もこれで一旦の夢となってしまいました。どうぞ、私のことは一切忘れて下すって御身体を大切に遊ばし、良い御縁を御求めになり、幸福な御生涯をお送りになるよう蔭ながら御祈り申し上げます。まだ種々《いろいろ》申し上げ度いことも御座いますが、書けば書くほど未練な心も生じ、涙が頻《しき》りに出ますから、これで失礼致します。末筆ながら御両親様によろしく御伝え下さいますよう。乱筆を御許し下さいませ。
     × 月 × 日[#地から2字上げ]文子《ふみこ》

       二

 おなつかしきT様。
 何という意外なことで御座いましょう。私は夢を見て居るのではないかと思います。今日御仲人様がおいでになりまして、私の手紙に対するあなたの御返事を承わり、且つ、あなたの御一身上の秘密を伝えききましたとき、嬉しいというよりも、むしろびっくりしてしまい
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