を踏むような一夜が明けるなり、私は逃げるようにして実家に戻りました。両親は驚いて、頻《しきり》に私を責め、一刻も早く帰るようにすすめましたが、私の決心は確乎として動きませんので、とうとう降参してしまい、私の自由に任せてくれました。そうしてやっと心の落ついた今、この手紙を書くので御座います。この手紙を御読み下さったあなたは、始めて、あの夜私があなたを怒らしめた理由を御知り下さって、私の心に同情して下さることと存じます。無論、私があなたを欺《あざむ》いたことには御腹も立ちましょうが、一面から申しますれば、あなたを欺きとおして不幸に陥れなかった私の心には、むしろ感謝して下さるだろうとも思います。すべてはあなたを慕うのあまり、あなたの幸福を思って執った私の態度で御座いますもの、若しあなたが私を愛して下さるならば、きっと御許し下さるだろうと思います。
然しながら、こうして一旦秘密を打明けました上は、もはやあなたの御手許へは帰れなくなりました。たとい私がどんなに御慕い申し上げ、又あなたが私のすべてを御許し下さっても、不具者《かたわもの》として御そばで一生を送ることは、私の堪えられぬところで御座い
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