の上でさえ、眼鏡を御取りにならなかった理由が、今になって私にもはっきりわかりました。そうして、あなたも、私と同じように、なるべく私に覚られまいと苦心して御いでになったかと思うと、何だか笑いたいような気になって来ます。あの時、二人が潔《いさぎよ》く打あけ合って居たら、どんなにか、心を軽くすることが出来たであろうにと、今更残念がっても致し方が御座いません。
 それにしても、あなたが、私と同じように潔く秘密を御打ちあけ下さって、私に是非共帰って来るようにと仰せ下さることは、あなたを御慕い申し上げて居る私にとって、どんなに嬉しく且つ恥かしいか、到底筆紙のよく尽すところでは御座いません。両親もほっと一安心致しましたが、御仲人様に対しては急に御挨拶も出来ず、一先ず帰って頂いて、こうして私が、あなたのうれしい御言葉に対して、胸を躍らせながら、御返事を認《したた》める次第で御座います。
 二人とも片眼を失った不具者《かたわもの》であるということは、却って二人の仲をかたく結び付けるよすがとなるかも知れません。ただ二人の間に出来る子供のことを思うと、さすがに恐ろしいような心持になりますが、必ずしも不具《か
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