にも仕様がないではないかという、理由にならぬ理由をもって両親は無理やりに私を引っ張って行ってしまいました。自動車で運ばれる途中、御宅で式を挙げる時、それから披露の宴席に列《つら》なりました間、私はただもう恐しい夢を見て居るような心地がしましたが幸いに近視眼であらせられるあなたには、私のただならぬ顔色も不審がられずに済みました。
 両親も多少は狼狽《ろうばい》したものか、御仲人様に私の身体の不浄を申し上げたのは、披露の宴も大方すもうとした頃で御座いました。御客様がたは、だいぶ御酒を召しあがって、随分上機嫌におなり遊ばしましたが、私は恐しいやら、苦しいやら、恥かしいやらで、心も上の空で御座いました。そうして、愈《いよい》よ二人きりになりました時も、私にとっては、あの柔かい褥《しとね》がいわば針の筵《むしろ》で御座いました。私の身体の不浄は、せめてもの幸いといってよろしく、若しそうでなかったならば……と考えて、私はあの夜《よ》一睡も致しませんでした。若し子供が出来て、私のこの恐しい眼病が遺伝したならば、どんなに悲しいことであろう。あなたを欺《あざむ》いた罪が、無邪気な子供に酬《むく》いたなら
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