あるまいと私は思いました。尤《もっと》も、あなたは強度の近視眼で、眼鏡をおかけになって居ても、普通の人ほどには御見えにならぬとの事で御座いますから無理は御座いませんが、たとい専門の御医者様でも、一瞥しただけでは、御わかりにならぬくらいで御座いますから、両親も、私のこの欠陥を十分かくし通すことが出来ると主張し、私も両親を喜ばせるために、心を鬼にして、秘密をもったまま嫁入りしようとしたので御座います。
 実際結婚の当日までは、私は自分の罪をさほど深いものとも思わずに暮しました。ところが結婚の日の朝、思い設《もう》けぬ月のものが、突然まいりましたのには、さすがに戦慄を禁ずることが出来ませんでした。予定の日より十日も早くまいったので御座いますもの、どうして驚かずに居《お》られましょう。もとより、こうした例《ためし》は世の中に沢山あることだそうで御座いますが、脛《すね》に傷持つ身には、神様よりの警告としか考えられぬので御座いました。私はその時、本当に恐しくなってしまい、両親に向って、どうか先方様《さきさま》へ私の秘密を告げて、結婚を差し控えて下さいと、涙を流して頼みましたけれど、今になってはどう
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