とうとう式まですましたので御座います。
 このように申し上げても、恐らく、あなたは、私の秘密が何であるかを御察し出来ないだろうと思います。或は結婚前に私が他の男と関係したのではないかというような想像をなさいますかも知れませんけれども、私の秘密は、まったく、それとは性質を異にして居るので御座います。それは……ああ、こうしていざ打明けようと決心してさえ、なおも筆が進みかねるので御座いますが、思い切って申します……実は私は右の眼の明《めい》を失った、不具者《かたわもの》なので御座います。と、申し上げましたら、どれ程驚きになることか、又、どれほどお怒りになることか。然し、どうかこの手紙をしまいまで御読みになって下さいませ。不具者ではありますけれど、生れつき、不具《かたわ》ではなく、一昨年の冬、突然網膜炎に罹って、明を失したので御座います。然し、網膜炎のことで御座いますから、外部から見ては健康な眼と少しもちがい無いので御座います。ですから、御仲人様は勿論《もちろん》、見合を致しました時に、あなたにも気附かれずに済んだので御座います。ああ、あの見合の時の恐しさ、裁判官の前へ出た罪人の心もこれ程では
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