。ことによると、病院の人々に知れなかったのを幸いに、出来るなら永久に生命を完《まっと》うしようとするのだろう。なぜ君は男らしく僕と一しょに死なないのだ。僕は君のその女々しい心が恐ろしいよ。それはいわゆる救われない毒婦の心と同じだ。君の計画には、いかにも女々しい、ドラマチックなところがあるよ。だが、それと同時に女性の計画に見ると等しい破綻に富んで居るよ。そんな計画では到底僕を殺すことは出来ぬだろうよ」
立って居る男の息づかいがだんだん荒くなって来た。
「君、僕は決して抵抗はしないよ。いや、抵抗しようと思っても、絶対に無力な僕だ。どうにでも君の欲するままにしてくれ。だが、君のその計画は到底遂行は出来ぬよ。出来るものならやって見るがよい」
「何?」と男は眼を据えて一歩近づいた。
「うむ、中々威勢があるね。だが君、短刀を持って来なかったのは、かえすがえすも君の手落だよ。何だったら、看護婦を呼んで短刀を借りたらいいだろう。というのは、その毒では到底僕を殺し得ない理由があるからだ。僕はその理由を聞かせてやりたいが、君のその女々しい心が憎いから、聞かせてやらぬのだ」
立って居る男の憤怒は絶頂に達
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