した。彼は歯を鳴らし、手をふるわせて、床頭台上の水瓶から、傍《かたわら》のコップに水を移し、手早く小壜の中から丸薬を取り出し、その一粒をベッドの男の口に投げるように入れ、次いでコップの水を注ぎこんだ。
ごくりという音がした。
立って居る男は暫くの間、じっと相手の顔を見つめた。
病人の眼元には微笑が浮かんだ。
「君、君はなぜ、のまぬのだ。やっぱり君の話は嘘だったのか」
男は黙って残りの丸薬を口に入れ、残りの水でぐっとのんだ。
二人は暫くの間、顔を見合わせて、各々相手の様子をうかがった。苦しい沈黙が室内を占領した。
五分間!
ベッドの男は眼の色をかえなかった。突然、立って居る男がよろよろと動いて、その身体をぶるっと顫わせたかと思うと、はげしい苦悶の色がその顔に漲《みなぎ》った。と同時に恐怖の光が両眼にさっと走った。
「どうした君」と病人は叫んだ。「さては君、致死量のストリヒニンでも死なぬ体質を作ったというのは嘘で、僕と一しょに死ぬつもりだったのか。君にも、そんなやさしい心があったのか。それじゃ早く僕は君に話せばよかった。僕は爆烈弾のハヘンで鳩尾を破られ、その結果|食道瘻《しょ
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