なぜ君を毒殺しようとしたか、その原因をよく知って居るだろう。君は僕の許婚《いいなずけ》の女を僕の手から奪って、僕を不幸のどん底におとしいれた。けれど、僕はただそれだけでは君を殺そうとは思わなかった。然るに君は彼女と結婚して間もなく、彼女が肺病に罹《かか》ると、恰《あだか》も紙屑を捨るように彼女を捨てしまい、彼女を悶死させたのだ。僕は君のその心がいかにも憎くてならなかったのだ。だから僕は君を毒殺して、自分も死のうと決心したのだ。本来、毒殺は女々《めめ》しい男のすることだが、君のような卑怯な男を殺すには、磨ぎすました短刀や男性的の武器たるピストルを用いるのは勿体ないと思ったのだ。
まあ、君怒るな。現に君は女々しくも僕を毒殺しようとしているではないか。なぜ男らしく、短刀かピストルで僕を殺さないのか。君には、それだけの勇気がないからだ。僕は君を毒殺しても、すぐ、男子たる面目をたてるために、爆烈弾をもって死のうとしたよ。だがいわゆる事志とちがって、自殺することさえ出来ぬ身体になってしまった。然るに君はどうだ。僕と同じ丸薬をのむことはなるほど気が利いて居るけれど、自分だけ助かろうというではないか
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