ら、医員は、皮肉にも毒薬を調合して、僕の枕の下へ入れてくれたよ。せめて、毒が傍にあったら自殺慾が満足するだろうといってね。君一寸手を貸して、枕の下から瓶を出してくれ。有難う。見給え、偶然にも君の瓶と同じものだ。又偶然にも同じ大きさの白い丸薬が二つはいって居る。けれども、それはストリヒニンではなくそれよりも遥かに強いアコニチンという猛毒がはいって居るそうだ。けれども、君、枕の下にあるその毒薬さえ、僕は何ともすることが出来ないのだ。君、両脚と両腕と片頬のない生活を想像して見たことがあるかね。それでも君は生甲斐があると思うか。ないよ。だから僕は、君が殺しに来てくれたことを恐ろしいと思うよりもむしろ嬉しく思うのだ。僕が殺そうとした君に殺されるのは、まったく、この上もない幸福だ」
 病人は言葉をきって相手を見つめた。立って居る男は固く口を噤《つぐ》んで、化石したように動かなかった。「だが」と病人は言葉をつづけた。「君の先刻《さっき》の話をきいて、たった一つ恐ろしいと思ったことがあるよ。それは、君が自分だけストリヒニンに堪える身体を作ったことだ。その君の心が僕には死よりも恐ろしいよ。
 君は、僕が
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