肉腫
小酒井不木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)床几《しょうぎ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)悪性|腫瘍《しゅよう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)できもの[#「できもの」に傍点]
−−

       一

「残念ながら、今となっては手遅れだ。もう、どうにも手のつけようが無い」
 私は、肌脱ぎにさせた男の右の肩に出来た、小児の頭ほどの悪性|腫瘍《しゅよう》をながめて言った。
「それはもう覚悟の上です」と、床几《しょうぎ》に腰かけた男は、細い、然《しか》し、底力のある声で答えた。「半年前に先生の仰《おう》せに従って思い切って右手を取り外して貰えば、生命は助かったでしょうが、私のような労働者が右手を失うということは、生命を取られるも同然ですから、何とかして治る工夫はないものかと、大師《だいし》様に願をかけたり、祖師《そし》様の御利益にすがったり、方々の温泉を経《へ》めぐったりしましたが、できもの[#「できもの」に傍点]はずんずん大きくなるばかりでした。もういけません。もう助かろうとは思いません……」
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