ぬ言葉に私はぎょっとした。はげしい戦慄が全身の神経を揺ぶった。
「まあ、お前さん……」と、細君。
それから怖ろしい沈黙の十秒間! その十秒間に患者は、自分の右手が切り離されて眼の前にあることをはっきり意識したらしかった。
「ウフ、ウフ……」
うめき[#「うめき」に傍点]とも笑いとも咳嗽《せき》ともわからぬ声を発したかと思うと、彼は突然その唇を紫色に変え、がくりとして看護婦の腕にもたれかかった。その時、彼の左手は身体と共に後方に引かれたが、左手の指が肉腫の組織に深くくい込んで居たため、切り離された右手は、盆をはなれて白布の上に引っ張り出された。
そうして、五秒の後、断末魔の痙攣が起った時には、その右手も共に白布の上で躍って、あたり一面に血の斑点を振りまいた。
底本:「怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 恋愛曲線」ちくま文庫、筑摩書房
2002(平成14)年2月6日第1刷発行
初出:「新青年」博文館
1926(大正15)年3月号
入力:川山隆
校正:宮城高志
2010年3月14日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http
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