えて、脚を上げさせ、次でもとの信念を破るようにすればよい。精神病治療にあっては、すべての妄想は他の妄想をもって打ち破る外はない」
こう博士に諭《さと》されても、助手たちは如何なる妄想を患者に起させてよいかわからなかった。
「よし。では、患者をここへ運んで来たまえ」と、博士は言った。
やがて患者は石のごとく運ばれて来た。博士は助手や看護人を去らしめて患者と二人きりになり、催眠術をかけて、患者の妄想を、他の妄想に置き替えた。
「これで、脚を上げるようになるよ」
博士は人々を呼び入れて、患者を運び去らせながらこう言った。
助手たちは、患者の室に集って、果して、患者が脚を上げるだろうかどうかを気づかいながら、熱心に患者を見まもった。
数十分間は何ごともなかった。
と、患者は、その右の脚を、すうっと高くあげた。
助手たちは感嘆の声を発した。
が、それと同時に患者は、「小便がしたい」と言った。
排尿の間、患者は上げた脚をおろさなかった。
すると、想像力の発達した一人の助手は叫んだ。
「わかった、わかった。先生は、患者の妄想たる石を犬に置き換えたんだ」
いかにもその通り、鬼頭博
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