粘稠《ねんちゅう》な塊が出来かかった。患者は熱心にそれを見つめて、いつ自分の腕が虹になるであろうかと不思議がっているらしかった。
 やがて博士は、その粘稠な塊を皿の上にのせ、それを水にとかした。そうして、竹の管《くだ》の先にその溶液をつけるなり、管の一方を口に当てて静かに吹いた。
 球が拡がると、美しい虹が管の先にあらわれた。
「有難う御座います」
 こういって患者は泣き出した。彼はそれほど満足したのである。
 いう迄もなく、博士は、患者の腕を煮て石鹸《シャボン》を作ったのである。

       三

 ある時、一人の患者は、腰から下が石になったといい出した。
 そう信ずるなり、彼は脚《あし》を上げることも出来なければ、また歩くことも出来なかった。
 助手たちは、何とかして彼を歩かせようとしたけれども、すべての試みは無駄であった。せめて片一方の脚だけでもあげさせることが出来れば、石になったという信念を打ち破ることが出来るからと思って、色々苦心して見たが、少しも成功しなかった。
「君たちは、患者の脚を上げさせて、患者の信念を打ち破ろうとするからいけない。先ず患者の信念を別の信念に置きか
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