第一人格へ移る時間が縮められて行くのを見て、八九郎の両親は心配し出した。もし、その時間が極度に縮められた場合、そこに当然高師直と大星由良之助が同時に意識の上にあらわれ、高師直は大星由良之助のために殺さるべき運命になるからである。換言すれば、八九郎は、われとわが身を滅ぼすことになるからである。
そこで両親は医師を招いて、何とかして、人格交替の時間を長くする方法はないものかと相談した。けれども、誰も、この要求に応じ得るものはなかった。
とかくするうち、八九郎の人格交替の時間はいよいよ減じて行った。両親はあせった。
すると、最後に罹《かか》った医師は、T市に一大精神病院を開いている鬼頭《きとう》博士を推薦し、同博士ならば、必ず適当な方法を講じて、八九郎を自殺の危険から救ってくれるであろうと言った。
そこで、両親は、八九郎をつれ、遙々《はるばる》T市をたずねて、鬼頭博士の診療を請うことにしたのである。
二
ここで、読者に、鬼頭博士の精神病治療法を紹介する必要がある。
ある時病院内の一人の患者は、夏の夕方、東方にあらわれた虹を見て、自分も虹になりたいと言い出した。精
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