。かやうな場合は毒性の極めて強い毒が極少量に入つた場合であるらしい。クレオパトラの死も此《この》後者の場合と見れば差支なからう。又多くの探偵小説作家が毒蛇による殺人を書くときは、何れも普通に起る前者のやうな症状は書かないで、極めてさつぱりした死に方を書いて居る。
 テオフラスツスは昔、毒蛇に噛まれたときの特効薬として音楽を挙げて居る。古代には実際音楽を蛇に噛まれた者に聞せたものらしい。然しそれで果してよく治療し得たや否やは勿論疑問である。現今では血清学上の研究が進み、毒蛇に対する治療血清も出来て居るが、何分急劇に症状を発するので、治療血清の注射が多くは時期を失する。



底本:「日本の名随筆 別巻78・毒薬」作品社
   1997(平成9)年8月25日第1刷発行
底本の親本:「小酒井不木全集 第一巻」改造社
   1929(昭和4)年6月
入力:加藤恭子
校正:菅野朋子
2001年4月26日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さ
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