、食事を取つたといはれて居る。マーセラス・ヱムピリクスは磁石を「お守り《アミユレツト》」[#ルビは「お守り」にかかる]として用ふるときは頭痛がなほるといつた。又鉄を引くといふ意味から、磁石の上にヴイーナスの像を彫つて「お守り」として持つて居ると、好きな女を引き寄せることが出来るといふ迷信もある。又欧洲では昔から硝子《がらす》が毒として考へられた。トーマス・ブラウンは其《そ》の理由を説明して、硝子の破片は如何《いか》にも鋭い、恐ろしい形状をして居るためであり、実際硝子を砕いて粉にして飲めば腸を害するからだと言つて居る。欧洲では近頃まで硝子粉末による殺児が屡《しば/\》行はれた。ダイヤモンドも同様にある場合には毒と考へられ、かの文芸復興期に出た鬼才パラセルズスはダイヤモンド中毒で死んだと伝へられて居る。即ちダイヤモンドの粉を口にしたといふ意味であらう。同じ中毒でも猫イラズなどよりはダイヤモンドの方が上品な気がする。史記の扁鵲倉公列伝《へんじやくさうこうれつでん》に、斉王《さいわう》の侍医が病気になつた時、五石を煉つて服したと書かれてあり、日本では昔眼病に真珠を用ひた。恐らく尊い意味で用ひたのであらう。
 エヂプトの世界最古の記録にも石を疾病《しつぺい》の治療に用ひたことが書かれ、欧洲では動物の体内から出た腸石、胆石等は憂鬱病《メランコリア》を予防すると言はれ、又多くの中毒(毒蛇に噛まれて起る中毒をも含む)を防ぐとも言はれて居る。殊《こと》に英国では矢《や》の根石《ねいし》が同様の目的に用ひられてある。宝石類が昔から病気予防のために「お守り」として用ひられて居ることは言ふまでもなく、ダイヤモンドは「平和を齎《もた》らし」「暴風を防ぐ」ものとして尊《たふと》ばれて居る。又蟇石と称する宝石は蜘蛛《くも》やその他毒性の動物に嚼《か》まれたとき、その疼痛を消すと伝へられて居る。然《しか》し現今《げんこん》でもさうであるが蛋白石《たんぱくせき》は昔から婦人は之《これ》を懸《か》けることを嫌つて居る。又ある一部の人々には真珠を持つて居ると命が危ないといふ迷信がある。有名な仏蘭西《フランス》の大喜劇作者モリエールは其の作「ラムール・メドサン」の中《うち》で、ジヨツス氏をして、「どんなに健康の衰へた青春の婦人でも、ダイヤモンドとルビーとエメラルドを懸けてやりさへすれば、必ず健康を恢復する
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