な大切な目的を果すためには北沢の計画はすこぶるあやふやなものだった。それは昨日も言ったごとく、若し僕が注意しなければ、投書はあやうく捨てられてしまうところだった。自殺を敢てしてまで果そうとする大切な目的を遂行するにしては、随分乱暴な計画であって、それは到底手ぬかりなどゝ言ってはすまされないことである。
「して見ると、この投書の危険も予《あらかじ》め計画のうちに入れられてあったと考えねばならない。すると北沢は、その投書が当然僕の目に触れることを予定して居たと考えねばならない。いゝかね、涌井君、いまこうして話してしまえば何でもないようであるが、僕がこの推理に達するまでには、可なりの時間を費したのだ。
「遺書に自作の文章を書かなかったのは、警察に埋葬の許可しか与えさせぬ計画だった。これは疑うべき余地はないが、投書を警察へ送れば再鑑定が行われ、当然、僕が、その投書と遺書が同《おなじ》一人《ひとり》によって同一の時に書かれたことを発見するということも、今は疑うべくもない、予定の計画だったのだ。
「即ち北沢は、僕が投書と遺書の同一筆蹟なるところから興味をもって研究に携《たずさ》わり、その結果、その
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