」と、福間警部が言った。
「いま、たずね出したところが、自殺説が変るわけのものではないし、又、むこうから名乗って出ない限りはたずね出せるものでもなかろう。とに角、これで事件は片づいたよ」
K君。
かくて北沢事件はとに角[#「とに角」に傍点]片づいた。それは新聞で君も御承知のとおりだ。けれども片づかぬのは先生の心だった。再び従前の活動状態に戻られた先生としては、事件の底の底までつきとめねばやまれる筈がない。「むこうから名乗って出ない限りはたずね出せるものでもなかろう」と言われたものゝそれは警察に向っての言葉であって、先生にはすでにその時、たずね出せる自信があったに違いない。それのみならず先生は、その事件の真相を警察に知らせては面白くないとさえ直感されたらしい。
警視庁を去るとき、
「この遺書と投書を暫らく貸してもらいたい。少し研究して見たいから」
と言って、先生はその二品を持って教室へ帰られたが、やがて僕を教授室に呼んで、
「涌井君、君はどう考える」と、だしぬけに質問された。
僕が何と答えてよいか返事に迷って居ると、毛利先生は説明するように、
「単に警察に投書があったというだけ
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