と他殺らしい証拠を作って然るべきだ」
「他殺らしい証拠を作っては却って観破される虞《おそれ》があるから、投書の方だけを誰か腹心の人に預けて置いて、あとで投函してもらったのではないでしょうか。現に、遺書を自作にしなかったのも、やはり、深くたくんだ上のことではないでしょうか」
「そうかも知れない。けれど、北沢という人が、果してそういうことの出来得る人かしら。とに角、夫人にきいて見なければわからない」
夫人が連れられて来ると、先生は、遺書を示して、それが果して御主人の筆蹟であるかどうかをたずねられた。
夫人は肯定した。すると、福間警部も、北沢の他の筆蹟と較べたことを告げ、なお証拠として持って来てあった二三の筆蹟を取り出して来て示した。
先生は熱心に研究されたが、もはや、疑うべき余地はなかった。遺書も投書も、北沢その人が同時に書いたものである。
「この遺書を御主人が書かれたのは、いつ頃のことですか」
「たしか、死ぬ二十日程前だったと思います」
「どこで書かれましたか」
「それは存じませんが、ある晩私にそれを見せて、もうこれで、遺書《かきおき》が出来たから、いつ死んでもよいと、冗談を申して
前へ
次へ
全42ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング