来た無名の投書がもとになったというではないかね」
「そうです」
「君は、その投書について調べて見たかね」
「いゝえ、投書はありがちのことですから、別に委しいことは検べませんでした」
「その投書はまだ保存してあるだろうね」
「あります、持って来ましょうか」
 警部は去って、間もなく葉書をもって来た。そこには、「北沢栄二の死因に怪しい点がある」と、ペンで書かれてあったが、僕はそれを見た瞬間、はッと思って、先生の顔を見ると、先生の眼はすでにぎら/\輝いて居た。
「涌井君。遺書を出したまえ」先生は遺書と投書の筆蹟を見くらべられたが、「この遺書と投書とは、同じ日に、同じペンとインキで、同じ人によって書かれたものだ※[#感嘆符三つ、184−1]」
 K君。
 その瞬間、僕は、たしかに一種の鬼気というべきものに襲われたよ。福間警部も、あまりの驚きで暫らくは言葉が出ないらしかった。
「福間君。御苦労だが、もう一度北沢夫人を連れて来て下さらぬか」
 警部が去るなり、僕は言った。
「先生、それでは、北沢氏自身が、二人を罪に陥れるために、そのような奸計《かんけい》をめぐらしたのでしょうか」
「それならばもっ
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