うです」と、その時、中央のテーブルに置かれた古風な洋燈《ランプ》の灯《あかり》がかすかに揺れたほどの大声で、隅の方から叫んだものがあるので、会員は一斉にその方をながめた。それは年に似合わず頭のつるりと禿げたC眼科医で、彼は勢い自分の言葉を裏書するような話をしなければならなくなった。
 で、C眼科医は小咳を一つして、コーヒーのカップを傾け、ぽつり/\語りはじめた。

 私は今から十五年程前、T医学専門学校の眼科教室に助手を勤めたことがあります。自分で自分のことを言うのも変ですが、生来《うまれつき》、頭脳《あたま》はそんなに悪いとは思いませんけれど、至《いた》って挙動が鈍く手先が不器用ですから、小学校時代には「のろま」中学校時代には「愚図《ぐず》」という月並な綺名《あだな》を貰いました。然《しか》し私は、寧《むし》ろ病的といってよい程復讐心の強い性質でしたから、人が私を「のろま」とか「愚図」とか言いますと、必ずそのものに対して復讐することを忘れなかったのです。復讐と言っても侮辱を受けたその場で拳を振り上げたり、荒い言葉を使ったりするのではなく、その時は黙って、寧《むし》ろにや/\笑って置い
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