段梯子の恐怖
小酒井不木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)足音《あしおと》

[#]:入力者注 主に外字の注記や傍点の位置の指定
(例)[#地付き](一九二六年二月号)
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「探偵趣味」第四号の配達された日、私を訪ねた友人Fは、室にはいるなり、
「もう来たかね?」といって、机の上にあった雑誌を、いきなり取り上げて、ページを繰り始めた。彼はことし三十七歳の独身の弁護士である。
「その十四ページを見給え、編集当番のNさんが、段梯子の恐怖ということを書いて居るから……」
「え?」と彼は雑誌をまるめ、びっくりしたような顔をして私を見つめた。
「何だい、馬鹿に真面目な顔になったじゃないか、……僕もかねて段梯子の恐怖を取り扱った小説を書いて見たいと思って居たのだが、みしり、みしり、と降りて来る深夜の足音《あしおと》などは、聊《いささ》か材料が古いから、もっと、現実的な恐怖はないものかと思って居るんだ。……おや、君どうした? 何をそんなにぼんやりして居るんだ?」
 こう言われてFははっと我に返ったらしかった。
「いや、実は、段梯子の恐怖と聞いて一寸思い当ったことが
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