あるのだ。小説の題材になるかならぬかは知らぬが、ついでだから話して見ようか」
これはG市の話だがね? 市立高等女学校にSという三十越した女教師があったのだ。姉妹二人暮しで、早く両親を失ったため、妹より十二も年上なSさんは、母の代りになって妹を育て、独身で稼いで、遂に芽出度く女学校を卒業させることが出来たのだ。妹は姉さんよりも遥かに美しかったので校長が大へん力を入れて、お聟《むこ》さんを捜し、遂に某青年に白羽の矢が立って、いよいよ見あいする迄に事が進んだのだ。
青年は校長夫人に連れられて、Sさんの家をたずね、すぐさま二階へ通されたのだ。先ずSさんが来て挨拶する、それから本人がお茶を運んで来る、双方チラと……いやいけないね、僕は描写がまずいから、とに角、その場の空気から察して二人は互いに気に入ったらしい。それからお菓子が出る、果物が出る、姉さんもかなりに喜んだらしいが、青年の観察したところによると、長年育てた妹を奪われる悲哀に似たものがその顔に浮んで見えたということだよ。ことに校長の媒酌《ばいしゃく》といえば文句もいえぬしね。
一時間ばかり過ぎて、盛装した娘は林檎の食いあましの皿を
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