してもあまりにも、その規則は、人を馬鹿にしていると思います。
 それにしても、軍医が私の後頭部を検査して、「不合格」を宣言したときには、私は卒倒せんばかりに驚きました。残残といおうか何といおうか、本当にその後一月あまりというものは気が変になるかと思うくらい悲しくてなりませんでした。
 私は軍医をうらみました。自分の不具をうらむ代りに、軍医をうらむのは道がちがっているかも知れませぬが、何とかもっと同情ある処置をとってくれたらよかりそうだのにと思いました。二銭銅貨大の禿のあることが何故悪いのでしょう。それが伝染性のものででもあったならば、或は不合格を宣言されても然るべきでありますが、私のこの禿は小さいときに、火傷を受けて出来たのでして、今でもこのとおりに御座います。それくらいのことは少し叮嚀《ていねい》に診察してくれればわかる筈です。まったくなさけないことだと思いました。

       三

 体格検査ではねられても、私は、私の軍人志願をあきらめることが出来ませぬでした。友人たちは、
「君が何か、その軍医を怒らせるようなことをしたのだろう。そのために、禿を楯にとって不合格を宣言したのだろ
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