う。毎年同じ軍医が検査をするとは限るまいから、是非もう一度受けて見たまえ」
 と、すすめてくれました。
 私はどう考えて見ても、自分が軍医を怒らせたとは思えませんでした。そうして、軍医の診断の粗漏《そろう》によるものと信じました。で、私は、もう一度、士官学校の入学試験を受けることに致しました。
 普通の人は、体格検査など問題にしないで、学科に苦労するのですが、私にとっては学科はむしろ第二義のもので、何とかして体格検査に通過したい、どうか、軍医がこの禿を正しく診断してくれるようにと心の中で神さまに祈りました。
 いや、おかしいでしょう。まったくこんな祈りをする受験生は今でもめったにないだろうと思います。
 いよいよ体格検査の当日が来ました。検査官を見ると、昨年とはちがった軍医でしたので、私は何ともいえぬ喜びを感じ、心臓の鼓動が高まりました。
 私の番が来たとき、私がどんな気持で軍医の前に出たか、御察しを願います。何だか気がぼーっとして、心臓の音だけが、いやに強く私の耳に響きました。
 軍医はついに問題の禿を見つけました。
 何といわれるかと思って、私の全身には粟《あわ》が生じたくらいでし
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