出来て、水銀の表面張力が弱められます。従って水銀の形が変るのですが、クロム酸水銀は硝酸に溶け易い物質ですから、水銀の表面張力は元に返ります。すると当然水銀の形も、元に戻り、外部から見て居ると、水銀が一運動したことを認めます。そうして次の瞬間更に重クローム酸加里と水銀とが接触し、同じことを繰返しますから、水銀は休むことなくアメーバ様の運動を行うのであります。
 次に人工心臓の現象はどうして起きるかと言いますと、硫酸液中の水銀に鉄の針を触れますと酸性の液の存在のために、接触電気が起って、その電気は金属と液体とを伝わって流れます。するとその際液体の電気分解が起り分解産物たる、陽電気を帯びた水素イオンは、陰電気を帯びた水銀の表面に着きます。すると水銀の表面張力が高まって水銀が収縮します。収縮すれば鉄の針との接触がはなれて、もとの大きさに膨《ふく》らみ、膨らめば針に触れて再び電気が起って縮み、かくて同じ運動を律動的に繰返し、外部から見て居ると、心臓の運動の如くに見えるのであります。

       二

 かようなことを長々説明しては定めて御退屈でしょうけれども、私が人工心臓を思い立った動機がこ
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