無いのであろうと考えるに至りました。
通常生理学の実験は、先ず手近な蛙について行うのを便利とされて居《お》りますが、人工心臓の実験をするには、蛙はあまりに小さすぎて、細工が仕難《しにく》いですから、私は家兎《かと》に就て実験することに致しました。いやもう、その家兎を幾疋死なせたことでしょう。凡《すべ》ての実験は必ず家兎を麻酔せしめて行いましたが、いかに人類を救うために企《くわだ》てられた実験とはいえ、今から思えば家兎に対して申訳ない思いが致します。世間の人々は、科学者を無情冷酷な人間と誤解し、実験動物を殺すことに興味を覚えるほどの残忍性を持って居ると思う人もあるようですが、強《あなが》ちそういう人間ばかりではありません。私が中途で幾度か実験を思い切ろうかと思ったのも、実は家兎を苦しめるに忍びなかったからであります。
実験の順序は、先ず家兎を仰向けに、特殊の台の上に固定し、麻酔をかけて、その胸廓の心臓部を開き、更に心嚢《しんのう》を切り開いて、それから私たちの考案した喞筒《ポンプ》を、心臓の代りに取りつけるのであります。といってしまえば頗《すこぶ》る簡単ですけれど、扨《さて》その手術
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