が徐々に伸びて行くかのように見えるのです。今、底の平たい硝子《ガラス》の皿に二十プロセントの硝酸を入れ、その中へ水銀の球滴をたらし、皿の一端に重クロム酸|加里《カリ》の結晶を浸しますと、その結晶が段々溶けて、皿の底面に沿って拡散して行き、中央の水銀球に触れると、恰《あだか》もその水銀球は、生物であるかの如く動き始め、一|疋《ぴき》の銀色の蜘蛛が足を伸ばしたり縮めたりするのではないかと思われる状態を出現します。これが即ち人工アメーバで、よく観察して居ると水銀はアメーバその儘《まま》の運動を致して居るのです。
 次に、人工心臓です。心臓は申すまでもなく、収縮と拡張との二運動を、律動的に交互に繰返して居《お》ります。心臓のこの律動的に動く有様を、やはり水銀をもって、巧みに模倣することが出来るのであります。即ち今、時計硝子の中へ十プロセントの硫酸を入れ、これに極少量の重クロム酸加里を加え、その中に水銀の球滴を入れて、それから一本の鉄の針を持って来て、軽く其《その》水銀球の表面に触れますと、忽《たちま》ちその球は、蛙の心臓のように動き出して、小さくなり大きくなり、所謂《いわゆる》収縮、拡張に比す
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