、博士はただにやり[#「にやり」に傍点]と笑うだけで、かたく口を噤《つぐ》んで話さなかった。ところが、ある日、私が博士を訪ねて、ふと、空中|窒素《ちっそ》固定法の発見者ハーバー博士が近く来朝することを語ると、何思ったか博士は、今日はかねて御望みの人工心臓発明の顛末を語りましょうといって、機嫌よく話し出したのである。ここで一寸《ちょっと》断って置くが、私はS新聞の学芸部記者である。
…………人工アメーバと、人工心臓とは、共にアメーバなり、心臓なりの運動を、無機物を使って模倣し、生物の運動なるものは、決して特殊な、いわば神変不可思議なものではなく、全然機械的に説明の出来るものだということを証明するため、考案せられたものであります。あなたはアメーバの運動を顕微鏡下で御覧になったことがないかも知れませんが、アメーバは単一細胞から出来た生物で、半流動体の原形質と核とから成り、そこで原形質がいろいろに形をかえて、食物を摂取したり、位置を変えたり致します。その匍匐《ほふく》する有様《ありさま》を見て居《お》りますと、あるときは籬《まがき》の上を進む蛞蝓《なめくじ》のように、又あるときは天狗の面の鼻
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