ざ生命が危篤になると、どうです、どの病気にも御承知のとおりカンフル注射を行うことになって居ます。日本だけで一年に百何十万という人が死にますが、その大部分は、カンフルを御土産として、あの世に参ります。このカンフルは申すまでもなく強心剤即ち心臓の働きを強くさせる薬剤ですから、つまり医学の究極は心臓を強くさせることだということが出来る訳です。急性病にしろ、慢性病にしろ、若し心臓さえ変らぬ力で働いて居たならば、治る病気は治り、治らぬ病気は治らぬままに生命を存続することが出来ます。ペストやコレラのような恐ろしい病気も、つまりは最後に心臓が犯されて死ぬに過ぎませんから、医学者たるものは須《すべか》らく、ペストやコレラの病原菌|穿鑿《せんさく》に力をそそぐよりも心臓を鉄の如く強くすること、否、一歩進んで鋼鉄製の人工心臓の製作に工夫をこらすべきであります。さすれば各種の病気を一々研究して、文献を多くする必要は更にありません。人工心臓の発明をさえ完成したならば、如何《いか》なる病気も恐るるに足りません。私はパストールやコッホやエールリッヒなどの業績を思うごとに、彼等が人類に与えた恩恵に感謝すると同時に、
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