全力をつくしてやります。で、その名刺をお持ちでしたら見せてください」
こう言って俊夫君はふるえる手を差しだしました。
第二回
一
小田刑事はポケットの中に手をさしこんで一枚の紙片を取りだし、俊夫君に向かって言いました。
「これが、女優川上糸子の死骸の上に、俊夫君に進呈と書いてあった名刺だよ」
こう言って、小田刑事はその紙片を裏がえして見ましたが、たちまち、
「おやッ!」
と叫びました。それもそのはずです。名刺の裏も表も真っ白で、何にも書いてはなかったからです。
「おかしいぞ!」
言いながら、小田刑事は、さらにポケットの中に手を入れてしきりに捜しましたが、求めるものはありませんでした。
「Pのおじさん」
と、俊夫君は叫びました。
「やっぱり、それが死骸の上にあった名刺だったのでしょう。ちょっと見せてください」
こう言って、俊夫君は、その名刺|様《よう》の白紙を受け取りました。
「これは隠顕《いんけん》インキで書いたものに違いありません。あなたがご覧になった時は、たしかに文字が書かれていて、それが一定の時間を経て消えたのです。ちょっと待っていてください」
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