飾りを盗まれて、俊夫君に捜索を依頼し、俊夫君は犯人を明るみへ出すことなしに、首飾りだけを取りかえしてやったからであります。川上糸子の名は東京じゅうの人は誰でも知っております。だから、電話をかけた男が、そう言ったのは当然のことです。
小田さんは頷《うなず》きながら続けました。
「ざっと調べたところによると、川上糸子はどうやら毒殺されたものらしい。そうして多分、他所《よそ》で殺されて、空家の中へ運ばれたものらしい。が、それよりも、奇怪なことは、仰向けに横たわった胸の上に一枚の名刺が置いてあったことだよ。
その名刺に印刷された名を僕は知らぬが、ただその名刺の上の右の隅に『進呈』という文字が書かれた左の上の隅に何と君、『塚原俊夫君』と書かれてあるではないか」
私たちはまたもや顔を見合わせました。
「つまり、川上糸子の死骸を君に進呈するという意味なのだ。そこで僕は、少なくとも、この事件は君に多少の関係を持っているだろうと考えて、電話で総監の許可を得て一切の捜査を君に依頼することにした。君もそれには異議はないだろう」
俊夫君は嬉しそうに頷《うなず》きました。
「どうも有り難うございました。
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