う眠っております」
 言う声が多少苦しそうだったので、俊夫君は、もし何か紛失したものがあれば、警察へ届け出るよう注意して、電話を切りました。
「兄さん、もう寝ようよ」
 とつぜん、俊夫君がこう叫びました。
「こういう時は、考えていたとて無駄だ。それよりも事件の発展するのを待とうよ」
「では、君は事件が発展すると思うのか。あるいは単なる悪戯《いたずら》ではないだろうか」
「人殺し云々は嘘かもしれぬが、近藤という家《うち》へ覆面の盗賊の入ったのは事実らしい。それを取り調べるだけでも面白いのだ」
 こう言って、俊夫君はさっさとベッドの中へもぐり込みました。そうしてすぐ寝入りました。しかし私は、なかなか寝つかれませんでした。
 果たして東京中の人が誰でも知っている有名な人が殺されたのであろうか。もしそうとすると、それは誰であろうか。また、何のために犯人は電話をかけてよこしたのであろうか。などと色々のことを先から先へ考えてゆくと、眼は冴《さ》えるばかりでした。
 そのうち、うとうととしたかと思うと、来訪者を告げるベルの音に、はッとして私は飛び起きました。俊夫君も同じく飛び起きました。もう夜はすっ
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