分頃、やっと、こちらの呼びだしに応じました。電話口へ出たのは女です。
「もしもし近藤さんですか」
と、俊夫君は言いました。
「今から二時間ほど前に、あなたの方から、こちらへ電話がかかりましたが、あなたのところに何か事件がありましたか」
こう言ってさらに俊夫君は、こちらの住所姓名などを詳しく語り、先刻そちらから、男の人がこれこれという電話をかけたが本当であるかどうかを尋ねました。
すると、先方の女の返答は意外でした。その返答の要点はこうなのです。
電話口へ出た女は近藤つねその人であるが、今晩一時少し前に、覆面の盗賊が裏口の戸をこじあけて入ってきたので、女弟子とともに悲鳴をあげて逃げだそうとすると、盗賊のために、二人とも苦もなく捩《ね》じふせられて、麻酔剤を嗅がされ、そのまま人事不省《じんじふせい》に陥ったが、やっと今、電話のベルで眼がさめたところだというのでした。
「もし、こちらから、あなたの方へ電話をかけた男があるとすると、その盗賊でなかったかと思います。こちらには、人殺しも何もございません[#「ございません」は底本では「ごさいません」]。女弟子は、まだ、麻酔剤のために、すうす
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