聞くなり、直ちに私と代わって、
「僕、俊夫です。あなたはどなたです?」
「ああ、俊夫さんですか。たいへんです。今、こちらに人殺しがあったのです」
「何? 人殺しが? 誰が、どこで殺されたのです?」
「殺されたのは東京じゅうの人が誰でも知っている有名な人です」
「誰ですか?」
「誰だかあててごらんなさい」
 この言葉を聞くなり、俊夫君は私と顔を見合わせました。重大な殺人事件を報告するに、「当ててごらんなさい」とは、たしかにこちらを侮辱した言い方です。俊夫君はしばらくのあいだ返事することを躊躇《ちゅうちょ》しました。と、突然、
「あはははは」
 と、先方の男は笑いだして、
「俊夫君、いかに君でも、こればかりは分かるまい」
 がらりと変わった言葉の調子に、俊夫君はむっとしました。
「何? 君は僕を侮辱するのか」
「まあまあ、そんなに怒るなよ。君を有名にしてやろうと思って、わざわざこの夜中に電話をかけたのだよ。この事件を解決するなら、君は、日本は愚か、世界一の探偵になれるぜ。しっかりしてくれよ。いいか」
「君は誰だ?」
「俺か、俺は、君たちのいわゆる犯人なんだ。東京じゅうの人が誰でも知っている
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