さましました。見ると、隣のベッドで寝ている俊夫君が、すでに起きようとしておりましたので、
「まあ、寝ていたまえ、僕が出るから」
 と言いますと、俊夫君は、
「それじゃ、一緒に行こう。こんな時分にかかってくる電話は、どうせ僕に用があるに違いないから」
 で、二人は、寝衣《ねまき》の上に外套《がいとう》を羽織って事務室に行きました。かねて私は、こういう場合の準備として、寝室に卓上電話を設けて、寝ていながら話せるようにしてはどうかと、俊夫君に勧めるのでしたが、俊夫君は、
「僕に用事のある人はみな重大な立場にいるのだから、寝ていて話すべきではない」
 と言って聞き入れません。私はいささか寒さに身震いしながら、受話器を取りあげました。
「もしもし、あなたが俊夫さんですか」
 と言ったのは、たしかに男の声です。
「いいえ、僕は大野というものです。俊夫君の代理です」
「では恐縮ですが、俊夫さんに出てもらってください。重大事件ですから」
 ここでちょっと申しあげておきたいのは、私たちのところにある電話は、受話器が二つに別れていて、聞くだけは二人で聞けるように装置してあります。俊夫君は、先方のこの言葉を
前へ 次へ
全44ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング